映画『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』子どもの疑問・大人の事情…永遠のテーマだなこれは。
こんにちは!lenoreです。
今回は、小津安二郎監督のサイレント映画『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』について書こうと思います。
小津監督の他の作品(音や台詞がある作品)はいくつか観ているんですが、
サイレント映画は観たことがなかったのでずっと気になっていた作品でした。
いやぁ…自分自身が親になった今観ると…すごく…ものすごく刺さる言葉が多かったです💦
音楽も台詞の声もなしの約90分
私は小津監督の映画がすごく好きなので、観る前から楽しみにしていたものの、
少し気になっていたのが約90分もあるサイレント映画ということでした。
一般的な映画の長さからすると約90分って短い方なんですが、
話の流れ・登場人物の心の動き・時折出る台詞文字のカットインなどをしっかり見ている必要がある
音が一切ないサイレント映画なので、集中力がもつかな?と…🤔
でも、これらの考えは結果的には杞憂でした。
美しいカメラ構図や子どもたちの生命力あふれる演技に魅了され、あっという間に過ぎていきました。
「譲歩」と「経験」
【この段落以後、内容について言及があります】
気持ちは分かるよ。
冒頭から約60分は、基本子どもたちがメインのお話。
ガキ大将が居て…そこに引っ越してきた男の子が居て…ケンカして…仲良くなって…という
「あぁこれぞ子どもの世界だな」という感じです。子ども視点の世界とも言えるのかな。
そして、その後ラストまでの約30分が…怒涛の"子どもの言葉が親の心にグサグサ"タイムです😭😂
ある日、上司が普段から撮っていた活動寫真※を見る席に子どもたちも居合わせ、
そこに映る父親の情けない姿を見て、子どもたちは憤慨します。
※活動寫真…この映画の中では日常の様子をフィルム録画したもの。活動寫真を撮ってそれを自宅で観られる環境はおそらく珍しい時代だったと思われるので、子どもたちにとっては楽しみしていたものだったんだろうな。劇中の表情を見ても伝わってきます。
「学校も勉強もめんどくさいなぁ」とちょっとダラけようとしても、
お父さんに怖い顔でキッっと睨まれると、背筋がピシッとする。
尊敬と畏怖を同時に抱かせるような、ある意味"絶対的強者"だったお父さんが、
上司を楽しくさせようと会社の人の前で変顔を惜しげもなく披露し笑、
上司に言われるがままペコペコペコペコしているところを見てしまう…。
親のこんなシーンを見てしまったら、
「ふんっ!なんだい(๑`^´๑)」となる気持ちは分かります。気持ちは、ね。
でもそういう訳にはいかないんだ。
私も親なので、このシーンを見た時には
「この後家に帰って子どもに会った時どういう顔すればいいのか分かんないわ💦」と思ったんですが、
子どもたちのお父さん、割といつもと同じ威厳ある雰囲気のままだったんですよね。
これすごく意外だなと思ったんです。なんというか…「メンタル強っ!」って😂
でも、この後、
子どもたち「お金があるから(上司の人は)偉いの?」
お父さん「(少し笑みを浮かべながら)お金がなくても偉い人もいる」
泣きわめく子どもたちが部屋に戻った後、
お母さん(妻)「もう少し優しく話して」
お父さん「この問題はこれからの子どもに死ぬまで一生ついてまわるんだ。何も好き好んでご機嫌取りしているわけじゃない。馬鹿馬鹿しい。でもそのおかげで生活が前より楽になってきているんだ」
頬に涙のあとが残ったままの子どもの寝顔を見て、少し微笑みながら
お父さん「こいつらも一生侘びしく爪を噛んで暮らすのか。俺のようなやくざな(いい加減な)会社員にならないでくれなあ」
こう話すお父さんの様子を見て、
●「お金が全てではないし、お金がなくても偉い人もいるが、お金はある方が良い」という道理を教えようとしている
●と同時に、子どもたちには理解が難しい問題=ずっと付いて回る問題だということもわかっている
●本当は自分でもご機嫌取りなんて馬鹿馬鹿しいと思っているけど、一重に家族のために頑張っている
●自分のように苦労してほしくないと子どものことを思っている
…お父さんこれはこれで大変だよね…めちゃくちゃ頑張ってるよぉぉー😭✨と感じました。
とんでもなく恥ずかしい仕事上の付き合いの顔を子どもに見られても
いつもと同じ威厳ある雰囲気で家に帰ってきたのは、
自分がやっていることに"家族のため"という明確な目的がある・守るべきものがある、
こういう自覚というか、誇りのようなものがあるからなんだろうなと推察しました。
両者の道が交わるには…
劇中でお父さんが言っていた様に、この問題は今でも残っていますよね。
(ちなみにこの映画は1932年の作品です)
この子どもの疑問と大人の事情がうまい具合に交わるには、
「譲歩」と「経験」しかないだろうなと私は思います。
お父さんが言っていたことは、社会人を経験した人なら誰でも感じるであろうことで、
でも、これはまだ子どもにはわからない。仕方ない。
まだその年齢ではない=経験していないから。
子どもが抱く純粋な疑問「なんで上司にペコペコするの?!」というのは、確かにその通りな疑問。
でも、社会人になったらそうしないわけにはいかない時もある。
年齢を重ねて経験できる時が来るまで「そういうものなんだな」とそのまま心に留めておく=譲歩するしかない。
この辺がうまく表現されているなと思ったのが、活動寫真を見た翌朝、踏切で上司と遭遇したシーン。
昨日の今日でまた子どもの前で上司にペコペコすることが出来ず、モジモジしているお父さんに対し、
子どもが自発的に「父ちゃん、お辞儀した方がいいよ」と言うんです😳✨
こうやって社会での親の姿を直接見ることで、
少しずつ社会や労働というものを理解していくんだろうな、
自分で実際に経験する前の段階を学べるんだろうなと感じました。
まとめ
最後まで観終えると、タイトルについている『大人の見る繪本』というのは言い得て妙だなと感じます。
子どもたちがメインのお話の部分が大半ですが、
この映画のメッセージは確実に、大人・特に親になった大人に向けたものだからです。
子どもの純粋な疑問に大人がスッと答えられないことってまぁまぁありますが、
もしかしたら「大人がこんなに大変そうにしてる仕事ってどんなものなんだろう?」と興味をもつかもしれないし、
“親の姿を見せる"ってこと自体は変わらず大事なんだろうなと思います。
この映画のお父さんみたいなところを娘に見られたら、私はちょっと恥ずかしいけどね😂
作品詳細
1932年の作品
原作…ジェームス・槇(小津監督御本人です)
監督…小津安二郎
脚本…伏見晁
●父…斉藤達雄
●母…吉川満子
●兄…菅原秀雄
●弟…突貫小僧
…他。
(参考:U-NEXT作品ページ , 映画.com )
読んでいただきありがとうございました🎥