映画『83歳のやさしいスパイ』顔を見にいくだけでも救われる孤独がある。
こんにちは、lenoreです!
今回はチリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン合作の映画『83歳のやさしいスパイ』について書こうと思います。
タイトルを見ただけで「83歳のスパイ?」と気になりますよね。
でも、鑑賞後にこのタイトルを見ると「83歳」や「スパイ」よりも、
真ん中の「やさしい」がとても大切な映画だったなと感じました😌✨
新たな充実
この映画の主役は、妻を亡くしたばかりの83歳男性・セルヒオさん。
彼は「高齢男性 1名 募集。80~90歳の退職者。長期出張が可能で電子機器を扱える方」という
新聞の求人広告を偶然見つけ、妙な求人があるものだなと思いつつも、興味を持ち応募します。
面接時に分かった仕事内容は
「依頼人は母親が入居している老人ホームで虐待が行われているのではないかと疑念を抱いている。老人ホームに3ヶ月間潜入し依頼人の母親の様子を探りつつ、ホームの運営状況や環境を潜入捜査してほしい」
というものでした。
面接に合格し"スパイ"として実際にホームに潜入する前に、
おそらくセルヒオさんの本当の娘さん・ダラルさんと一緒にお話するシーンがあるんですが、
(セルヒオさんとダラルさん顔がよく似ているし、面接途中に「実はもう映画の撮影は始まっていて…」というマイテ・アルベルディ監督のお声?が入っているのでリアルっぽい)
「父は数か月前に母を亡くしたばかりなので…」と仕事内容を心配するダラルさんに対し、
「パパはよく買い物に出かける。目を瞑っていても店が分かるくらいだ。でももう買い物も飽きた。散歩したり日光浴をしたり木や鳥を眺めたりもする。でもそれも飽きた。外出してアパートに帰る、張り合いのない毎日だった。
だが、今回の仕事にはすごくやりがいを感じている。いろいろ頭を使って大変だが、心はすっきりして、昔の自分に戻ったようだ。以前は見るもの全てにママの思い出を重ねていた。だけど今はもうそうじゃない。
ヘトヘトになって帰るとすぐ眠れる。精神的にとても充実していて、本当に満足している。だから何も心配することはない」
セルヒオさんがこう話して、ダラルさんを安心させようとしているのを見て、
芯がしっかりしていてなんてかっこいいおじいちゃんなんだ!と憧憬の念を抱きました😭✨
こんな感じでこの映画、分類は"ドキュメンタリー"なんですが、
●セルヒオさんが率直に自分の思いを語るシーン もあれば、
●セルヒオさんが"電子機器"iPhoneの操作に実際に苦戦するシーン
●カメラマンが画角に入っているシーン
●マイクが少し映っているシーン
●「映画を撮っているらしいよ」という入居者のリアルな声が入っているシーン などもあり…
わたし的には“限りなくドキュメンタリー寄りの物語性のある映画“という感じがしました。
“報告"で分かる入居者の孤独
【この段落以後、内容について言及があります】
皆趣味を持っていて充実しているように見えるが…
実際に老人ホームに潜入すると、
●詩を書くのが好きな人
●恋する気持ちを忘れていない人
●人と接するのが苦手な人
●母親がいつか迎えに来てくれると思っている人
●無意識に窃盗してしまう人
などなど…
いろんなタイプの人が共同生活を送っていることが分かります。
撮影中はみんな一緒にご飯を食べたりおしゃべりをしたり楽しそうなんですが、
潜入捜査の中でそれぞれの人を深く知っていくと、総じて孤独を感じている人が多いことが分かります。
「いつ迎えに来てくれるの?」
私が一番心に残っているのは、無意識に窃盗してしまう女性・マルタさんです。
マルタさんは自分の母親がいつか迎えに来てくれると思っており、
職員が母親のふりをして老人ホームにかける電話に出ては「ママ、いつ迎えに来てくれるの?」と聞いていました。
(マルタさん自身がもうご高齢なのでお母様はおそらくご存命ではない。職員の方の心遣いでやられているんじゃないかと推測)
そんな彼女、一度老人ホームの外に脱走してしまったことがありました。
翌日、脱走について職員と話した時には「なぜ外に出たか分からない」と自分で言っていたんですが、
いつもと同じように職員が母親のふりをして老人ホームに電話をかけると
「ママ、どうして会いにきてくれないの?私が何か悪いことをしたと聞いたのなら、迎えに来てくれても良かったんじゃない?」
と…ううう…マルタさん…😭😭
マルタさん以外にも、そもそもご家族が面会に来る人があまりおらず、
「これは確かに寂しくなっちゃうかもな…」と切ない気持ちになりました。
でも、入居者の方々が老人ホームでこれからも過ごすためには、
ご家族が毎日一生懸命働いたり日々を頑張らないと成り立たないことなので、
一概に「寂しい」では片付けられない難しい問題だなと感じます🤔
顔を見る・見せに行くだけでも良い
とはいえ…
長い間家族が面会に来ず、心も体も不安定になっていたルビラさんという入居者の女性のために、
雇用主である探偵のロムロさんに頼んでルビラさん家族の近況を調査依頼 → 直近の写真を入手したセルシオさん。
その粋な計らいで、直近の家族の写真を見た瞬間のルビラさんのあの笑顔といったら!
あれを見たら、顔を見る・顔を見せに行くだけでもすごく大事なことだよなと感じました。
書面であんなにニッコリするんだから、実際に会えたらもっと嬉しいだろうな。
まとめ
老人ホームにはいろんなタイプの人が居ましたが、
「あれ…彼って全入居者の心のカウンセラーだっけ?」と思ってしまうほど、
セルヒオさんが、皆に親身に丁寧に、そして女性に敬意を持って接している姿が本当にかっこよかったです。
内も外も本当にイケメン…✨
私もこんな風に年齢を重ねていきたいなと思う方でした!
特別なことや大きな波は起こらない、比較的静かな場面が多い映画です。
人に「やさしく」接したい、と感じた時に特におすすめです!
作品詳細
2020年の映画。第93回アカデミー賞 長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート。
原題:『El agente topo』
監督・脚本…マイテ・アルベルディ
●セルヒオ・チャミー…聖フランシスコ特養ホームに潜入する83歳の新人スパイ。
●ロムロ・エイトケン…セルヒオの雇用主。A&A探偵事務所の探偵。
●ダラル…セルヒオの娘。
…他。
予告編
↑ 映画『83歳のやさしいスパイ』予告編 ( 配給 アンプラグド 公式YouTubeチャンネルより)
読んでいただきありがとうございました🎥